内部統制は絶対―大手上場外食チェーンによる200店舗のシステム改革

「システム変革に100パーセント100点満点はないと思う。何点で妥協するか。ただ、外してはいけないところはあって、システム導入の前提となる要件は絶対に外さない。」

大手外食チェーンで行われた店舗システム刷新プロジェクト。
システムによる内部統制の担保、管理本部と営業責任者の利害の調整、200を超える店舗での新システム運用はどのように行われたのか。
上場企業ならではのシステム要件から、飲食業界特有のカスタマイズまで、導入担当者の意思決定のストーリーをここに公開。

 

横田 隆之

大手外食チェーンで店舗系システムの導入、運用、展開を労務管理領域のリーダーとして経験。退社後、経営コンサルタントとして飲食業界の企業に対してコンサルティングを行う。


上場企業の意思決定のストーリーを紐解く。
多数の関係者を前に、担当者は何を考え、何を実現したのか。


意思決定①「なぜシステムを移行しようと思ったのか」

 

―移行前のシステムについてお聞かせください

 

会社のシステムは大きく分けて、本部の基幹システムと現場の店舗システムに分けられます。

今回システム移行を行った店舗システムに関しては、移行を始めた2002年以前は、完全に自社で開発したシステムを使用していました。勤怠システムは会社全体で使う店舗システムの一部として、ハード部分であるタイムカードとシステムを連動させて開発しました。ゼロからすべて作り、お店の中で完結させていました。

 

―システムを移行するに至った経緯をお聞かせください

 

きっかけは既存の店舗システムの老朽化です。

当時、システムの前提となるインターネット技術の発展が著しく、当時の工事や回線整備が必要な大掛かりな店舗システムは老朽化に伴い、時代と合わなくなっていた背景がありました。

そのタイミングで、店舗システムを刷新することになり、店舗システムの一部であった勤怠システムもそれに伴い変更する必要が生じたといった経緯で、私が勤怠のリーダーとして導入、展開、運用を担当しました。


意思決定②「システム選定の理由」

―どのような観点でシステムを選定しましたか?

 

システム選定の前提として、内部統制を適切にできるかという観点が非常に重要でした。

当時J-FOX法制定をはじめ企業の労働管理の在り方が見直され、飲食業界でも、外食業のみなし残業、名ばかり管理職といった実態が浮き彫りになっていたのです。また労働基準監督署から直接人事部の担当者に対して、具体的に一分単位での勤怠を履行しなさい、労働管理者の残業を適切に把握しなさいといった内容の直接指導がありました。

加えて我々は上場企業として業界の最前線にいましたから、トップ層はステークホルダーに対し企業コンプライアンスや内部統制の説明責任があるため意識が高く、上場企業として情報を開示できるようにしなくてはいけませんでした。

トップから内部統制のフローや1分単位の勤怠管理を行おうという要望というかむしろ命令が来たので、それを踏まえた要件定義が重要でした。勤怠については、システムによってそれらの要件を担保する必要があったのです。

以上から、システムの具体的な要件として、

  • 1分単位の管理ができること。
  • 出勤の始まりと終わりが記録として残ること。
  • 誰かの承認を持ってその記録の信頼性を担保できる仕組みがあること。

を挙げ、システム選定に至りました。

 

内部統制は絶対。内部統制を担保するためのシステム要件

―具体的な選定の経緯を教えてください。

 

当初、システム担当者へは、自社開発ではなく他社のASPを使いたいという要望が上からあり、その中でシステムを比較することになりました。というのも、自社開発によってゼロベースで一からスクラッチで作るには多くのコストと費用が掛かる反面、ASPはコスト面で確実に優れているからです。それに加え、今でいうクラウドによる一元管理をASPでやってみたいという技術的な希望がありました。

飲食店向けのASPには様々なシステムがありますが、結局採用となったのは、社長からの紹介があったシステムでした。当時、ASPとして売っていた製品で、他にも同じようなシステムを当然比較しましたが、トップからの提案であることに加え、その商品自体のコスト感や、1分単位の管理ができ、本部からの管理もできるという点を鑑みて、採用に至りました。


意思決定後② 導入過程

 

―システムの導入過程を教えてください。

 

まずシステムとして、勤怠管理データを正確に取り出せるかということ、そこから本部の勤怠計算のシステムと問題なく連携が取れるかということを確認しました。我々の場合は、多店舗展開をしていて、当時200店舗ほどあったので、その量のデータをサーバー上で滞りなく管理できるかということも確認しました。

その後、はじめに1店舗でテスト導入し、次にエリアの10店舗ぐらい、その後全店舗と段階的に導入を進めていきました。2,3か月で一店舗、そこから半年くらいでエリアなので、全部で1年近くかかりました。

テスト導入では、現場である店舗のオペレーションがうまくいくかを重点的に確認しました。導入当初はやはり現場から戸惑いの声がありましたね。その時は出退勤の認証方法もタイムカードをやめたのでどうしようか、試行錯誤しました。最終的に決めたのは、オーダリングシステムですね。レストランでスタッフが注文の時に手にもって押しているのがあるじゃないですか。あそこの中にシステムとして勤怠システムを入れておいて、スタッフはそれで出退勤を行い、店長がそれを見てOKってするんですよ。

 

―テスト導入を踏まえて、どのような判断軸でエリア展開のGOサインを出しましたか?

 

営業サイドである現場が新しいシステムに納得してくれたかどうかということです。

基本的には、店側の営業が納得していいよって承認をもらわないと展開はできないので、最終的には営業担当の役員まで報告をして、そこで承認をもらうというステップを踏みました。

営業の承認をもらうためにした工夫は、法令遵守や適切な労務管理は企業として外せませんよね、ということを強調したことがひとつ。

それから営業サイドが一番気にする店舗が負担する費用は許容範囲内なのか、パートさんから高校生までITリテラシーが異なる集団の中で簡単に運用できるものなのか、という点を営業の役員に対してプレゼンをしました。リアルタイムで従業員の勤怠状況が把握できることも、今までにはない点として強調しました。

営業の責任者が一番気にかけていたのはコストでしたが、エリア展開承認の決め手として一番大きかったのは、その頃の社会情勢として企業の労務管理はこのレベルまではしなくてはいけないと、内部統制の必要性を理解してくれたことですね。

―現場の浸透を促すために何か工夫はされましたか?

 

店長を集めて勉強会やったり、我々が現場に出向いて状況を見て説明したりということはしました。通常の操作自体は問題ないんです。忘れず打刻してねって促すだけですから。

ただ、何かイレギュラーが起きる、予想もしないことが起きたりということがあったときに、最初はどうしても新しいシステムは対応しきれずにエラーが起きるので、それを潰すまでは結構、大変でしたね。そういったエラーは営業側からみると本当に大丈夫かって思われてしまうので、そこを納得させる。

システムを変更したときは、だれがいつやったかというログを最終的に残す仕組みにしたり、想定しうるトラブルシューティングを仕組み化したりしました。実際に、そのシステム構築の作業はベンダーがやりますけど、そこに指示を出したり状況確認をしたりは私が行いました。

 

―スムーズな運用を行うために工夫された点はあります?

 

問い合わせを我々で対応するようなヘルプデスクの体制を作りました。現場から使い方がわからないという声があったらすぐに対応できるように。導入、展開とやりましたけど、どちらかというと運用の方が大変。入れるのはそこだけパワーかけたらいいので、そこはなんとかなるんですよ。ただ、長いのは運用で大変ですね。

結局、向こうは一対一ですけど、我々システムの問い合わせ先となると、一対多になるので複数から同じことが来たりとかあります。それはそれで整理すればいいですけど、いたちごっこというか。いつ終わるとはないんですよね。そこでの体制はきちんととる必要があります。

我々の場合、勤怠だけでなく店舗系や本部系も全部含めてのヘルプ部隊を、常駐の7,8人のSEでまかないました。電話やパソコンのリモートでこちらから入って、そこで実際に操作して説明したりとかということをしていました。

お店はサポートの体制がしっかりあれば安心しますし、できてないと不安に感じます。規模が大きくなればなるほど、運用とそれをバックアップするヘルプの組織が不可欠ですね。それは、勤怠だけじゃなくて、あらゆる領域のシステムに言えます。結局そこにコストがかかってしまいますね。

段階的なシステム展開ー現場の納得感が重要


意思決定後②導入の結果

―システム移行によって得た効果、メリットを教えてください。

 

【本部に関して】

一番のメリットがあったのは、本部で店舗の管理や監査を行う内部監査室ではないでしょうか。現場の状況(勤務状況など)がよりきめ細かく分析できるようになりました。その前は、勤怠管理でいえば1店舗1店舗まわってタイムカードを集めていましたが、システムを変えたことで店舗に行かずとも本部で一元的に管理できるようになりました。これによって相当時間の労力も削減されたと思います。

 

【店舗責任者(店長)に関して】

また店舗は店舗で、店長が従業員の労働管理のリテールを見られるようになったのは良かった点です。従業員が今月何時間働いたかみたいな詳細なリアルタイムの情報は、今までは電卓をたたいて把握しなければいけなかったので、それが画面上で見れるという点では効率化されたと思います。

また、システムを変えることによって、当時のフロー管理の考え方を店長に刷り込ませることはできたと思います。今は世の中1分単位だよとか、法令を遵守しないと駄目だよ、有休ちゃんととらせないと駄目だよとかいうところをもう一回教育できたというところは、システムの入れ替えとか、そういうタイミングじゃないとなかなかできないので、そのきっかけとしては良かったかなと。

店長自身の労務管理の徹底にも貢献しましたね。今は結構うるさく言われますけど、当時の店長の労働時間って自己申告制で、あまり実態や本当の労働時間が見えなかったんです。ほとんど野放し状態で、残業がついているのかすらわからなかった。そういった状況があり、新しく入れたシステムを労務管理するための道具として位置づけたかったので、労務管理ができていない店長に対してこれを機に指導することができました。

 

【店舗スタッフに関して】

不正打刻はかなり少なくなりました。スタッフのその日の出退勤を店長が承認する仕組みにしたので、不正な打刻がそのまま登録されることはなくなりましたね。ただ、賢いやつは賢いですから、責任者がいないときとかうまくごまかせばできてしまって…。店舗ではまさにいたちごっこだと思います。しかし、本部の内部監査室がリアルタイムに同じデータを見ることができる体制ができたので、最終的にかなり不正打刻の防止を強化できたのではと思います。

 

―ネガティブな声はありましたか

 

特に本部からも現場からもネガティブな声はありませんでしたが、店長は大変だったかもしれないです。というのも、お店で各個人が出退勤を登録して、その日の終わりに日々店長がその日の出退勤を承認する仕組みにしたので、そこの確認の手間は増えたと思います。今までその仕事は全然なかったものでしたから。

またシステムの運用に関して、我々が想定した通りに使い切れなかった。例えば、本部にいてソフトに入りさえすれば労務状況を確認できるのにそこまでやらない。どこかでまとめて報告しろっていうようなことになったので、そこはそうじゃないよねと言ったんだけど、なかなかそうはならない。

それに関しては、各店舗データのサマリーを表示する仕組みを作っていなかったのでそこが誤算だったかもしれないです。本部って、多くの店舗を一覧で見ていく必要があるので、1店舗1店舗見るとかなり時間がかかりますし大変な作業ですからね。

 

―ASPの好悪を教えてください。

 

ASPですので、汎用性があることはメリットですが、逆に言えば、自分達の今までのやり方にシステムをカスタマイズすることが前提となります。そのカスタマイズの費用がどんどんどんどんかかってしまいますね。またカスタマイズを重ねるほど複雑な仕組みになっていくので、費用もそうだし、運用も大変。そこはすり合わせが必要ですね。規模の大きい会社はカスタマイズは絶対必要で、小さい会社でも、結局カスタマイズが必要になります。ベンダーはそこで儲けるので。

 

―具体的にどういったカスタマイズを?

 

休憩時間の取り方としてみなしという考え方があります。休憩入りますよと言ったら、自動的に15分とか、あるいは、8時間労働9時間拘束だったら、自動的に1時間引くというシステムもあります。しかし当時会社として、みなしではなく、休憩の入ったときと終わったときの打刻を絶対させろという方針があって。1分管理の勤怠管理を徹底するためですかね。しかし当時のシステムは、休憩時間はみなしでしか管理できずお尻を締めるっていう仕組みが無かったので、そこを追加しました。

パッケージそのままで運用ということはあり得なくて必ずカスタマイズが入りますが、店舗の要望をすべて聞き入れてカスタマイズを重ねると、費用も運用も大変。力のある営業サイドが1から10まで正しいっていうわけでもないし、その業務は本当に必要かということをしっかり見極めることが重要。あとはそこを上手く調整する。

システム担当者はどうしても間にはさまるので、そこの調整は必要不可欠です。100パーセント100点満点はないと思う。何点で妥協するか。ただ、外していけないところはあって、システム導入の前提となる要件は絶対に外さない。

 

―本件のシステム改革ののち、他業態への応用をされたと伺いましたが。

 

このシステム導入の過程で、内部統制がしっかりとれる点、本部での労務管理が徹底できる点が評価され、ほかの業態でもシステムを入れ替えようということになりました。

業態として、今回と同じ店舗系の他の業態と、もう一つ、自社工場を持ってまして、工場の方の勤怠システムにも応用しました。

業態が変わると責任者も変わるので、結局やることは変わらず、プレゼンなどを通して営業責任者への説得をしましたね。店舗であろうが工場であろうが、労務管理として適切に管理できる体制を入れればいいっていうことは同じですが、現場のニーズはやはり業態によって異なります。

例えば、工場の場合だと、決められた時間に大人数が同時に入って来るんです。それだと、ひとりひとりピッて出退勤をやっていたのでは、最初の人と最後の人にずれが出る。同じ時間に出勤しているのに不公平ですよね。だから、同時に、同じ打刻時間を入れるためにはどうしたらいいのか、考えるわけです。

業態に応じてニーズ、運用がどうなのかということを把握しなければならない


最後に

―意思決定をする際に参考とする情報源は何ですか?

 

現場の声ですね。

今はやっぱりネットで調べるのが多いというか、情報は取りやすいです。ただ、ネットの情報はあくまでも補助。そこをベースに何かを進めたりということはないです。

というのも業務形態って中でしか分からないことがあるので、外部からは有用な情報は出てこないんですよ。そこを実際に中に入って、現状がどうなっているのか、ヒアリングしたり見せてもらったりしなくては価値のある情報は得られないし、課題の解決はできない。事前にある程度要件のテーマに沿って、ヒアリング内容を絞って用意しておいて、そのあと現場に足を運んで現状と現場のニーズを理解しますね。

おさらい

2002年、自社システムの老朽化から、店舗システムの刷新を決意。

上場企業として徹底した内部統制を行いたいというトップの意向により、一秒単位の勤怠管理が可能である、ASPシステムを採用した。

導入担当者の横田氏は、実際の運用ニーズを想定したシステムの構築、内部統制の必要性を訴えたことで、営業サイドの承認を得ることに成功、新システムの全店舗展開に至った。その後店舗系の他の業態や自社工場に対して同様にシステム改革を行う。

システム移行によって、内部監査の効率化、適切な労務管理の徹底、不正打刻の減少という結果に至った。

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